櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「...!」
ジンノは目を丸くする。
確かにジンノはあの時、告白をした。
だけどまさかその事についての返答が来るとは思っていなかったのだ。
「酷な事を言ってるのは分かってます...だけど、やっぱり兄さんは、兄さんのままがいい」
「ルミア、...」
「また、兄さんって呼んでもいいですか?前みたいに...」
俯きながら瞳を潤ませ、そんなことを言うもんだから
(この子は...まったく......)
馬鹿な俺は、その甘い言葉に揺らいでしまう。
「いいのか?それでお前は後悔しないんだな?」
「うん」
「本当に...俺はまた、お前の兄を名乗ってもいいのか?」
「...うん!!」
ボフっ!
勢いよくルミアがジンノの懐に飛び込んできた。
わずかに震えている。きっと緊張したんだろう。
怖がっていたのかもしれない。
ギュッと目を瞑り力いっぱい抱き付くルミアに、ジンノは困ったように笑う。
本当にこの子は分かっているだろうかと、そう思いながらも、同時に長年居続けた立ち位置に戻ってきたと実感した。
居心地のいい、この場所に。
大きな手でルミアの頭をポンポンと撫でながら、ジンノは眼を閉じる。
ルミアの甘い、魔力の香りが鼻孔を擽る。
「ルミア」
「ん?」
『死』という運命から逃げるのではなく、立ち向かい、そして生きてみせた強く美しい妹を抱きしめ、ジンノは言った。
あの日からずっと言いたくて、言えなかった言葉を。
「生きててくれて、ありがとう」
それを聞いた真っ白な妹は笑った。
幸せそうに、昔のような屈託のない笑みを浮かべ。
それを見たジンノは思った。
ああ、
これが欲しかったんだ、と。
(この笑顔があれば、他に何もいらない)
二人の頭上にはフェルダンの夜空
宝石のような星たちがキラキラと闇を輝かせる。
オーリングの魔力の影響ゆえか、いくつもの流れ星が夜空に線を描いていた。