櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ







 ルミアの所在を掴むのはたやすい事だった。



 もともと、諜報活動はアネルマの得意分野。



 精度の高い式神を作り出すことが出来る彼女は、それを飛ばして遠く離れた状況を事細かに知ることが出来る。



 人のあとを追うことなど容易いというわけだ。






 式神で得た情報を頼りに、アネルマは街に出る。



 てくてくと歩きながら、目の前に広がる王都をおもむろに見渡した。





 随分と様変わりした景色に見惚れる。



 国を彩るサクラの花。



 春風に乗って宙を踊るように舞う花弁が、とても美しい。



 黒く染まった人の心さえも浄化してくれるような柔らかな色が国中を包んでいる。



 それを微笑ましく見つめながらアネルマは歩いた。





 思えば、牢獄を出て以降、こうやって外の景色を眺める暇もなかった。



 罪に身を置き、仕事に追われ、いつになく周りに目を向けることができなかったから。



 だから、シェイラに貰ったこの時間は、良くも悪くもあるべき機会だったのかもしれない。


 



 向かった先は魔法学校。



 一応卒業生なので勝手は知っている。



 正門から入ると警備に見つかり、今のアネルマにとっては少々ややこしいことになるだろう。



(そういう時は、っと...)



 正門から校舎の塀を伝い、東に向かってやや足を進める。



 すると、塀をつくる石の中に一つだけ赤みがかったものが。



 アネルマはそれに触れ、呪文を唱える。



 すると塀の中に、それまでなかったはずの大きな穴が突然出現した。



 これは大昔、魔法学校の生徒が密かに作った秘密の入り口。



 生徒間に代々伝わっている。



 中からも外からも自在に開けられるから、おそらくは黙って生徒が学校を抜け出すように作ったのだろう。



魔法学校の周囲には人の出入りを検知する結界が張り巡らされている。



しかし、この入口から入ればそれも検知しない。



簡単そうに見えて、実に精巧につくられた魔法である。



アネルマはその入口をくぐり校内へと入る。



(本当に、こんなところに彼女がいるのかしら...)



 若干不審に思いながらも、歩みを進めるアネルマ。



 ちょうど授業中なのだろう。



 生徒は見当たらないが、気配はある。





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