櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ







「...懐かしい......」



 石造りの巨大な校舎、古びた扉、幅のある廊下、くすんだ窓、汚れ気味の建物の割に手入れの行き届いた中庭。



あの頃から一切変らない。
  


(そう言えば、あの子に抱き付いてた男子も学生服着てたって言ってたわね)



 それも、青い髪の男。



 青い髪などこの国じゃ滅多に見かけない。



 本当に実在するならきっと目立つはずだ。





(まあ、まずは彼女の居場所よね)



アネルマは手にふうっと一息吹きかける。



 するとそこに今まで居なかった、白い人型の小さな紙がするりと姿を現した。



 これは彼女が魔法で造り出した式神。



 どんな場所にでも潜り込み、長時間の詮索が可能なものだ。



 ルミアの作った白い着物を着たおかっぱ頭の女の子と同じ式神であるが、より諜報活動に特化したものと言えるだろう。



 手のひらサイズのそれにアネルマは話しかける。



「ルミアの元に連れていきなさい」



 その瞬間



 彼女の手のひらにいたその人型の紙は、すくっと立ち上がり手のひらから降りて独りでに動き始めた。



 アネルマはその後を追う。



 するすると迷うことなく校舎の中を進む小さな式神。



 階段をあがり二階へ向かう。



 そのままそれは各クラスが授業を受ける教室棟に。



 そこでアネルマは驚きの光景を目にする。






 教室を覗ける小さな窓



 そこから見える教室の中には、たくさんの生徒の前に立つ見慣れた白髪の女性が。



 彼女の二色の瞳がアネルマを捕える。



「あ、...」



「...はあ?」


 
 ルミとアネルマの二人は、互いに、ここに居るはずのない人物を目の当たりにして、同時に固まってしまったのだった。





< 51 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop