櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ











キーンコーン――




チャイムと同時に教室にいた生徒達は一斉に席を立つ。



中にいたルミも我に帰り、皆に礼をとって教室から慌てて出てきた。



「あ、アネルマさん!?どうしてここにっ」



「それはこっちの台詞よ、あんた何で...!」



「...っ!とりあえず、一旦ここを離れましょう」



おそらく、今のチャイムで昼休みに入った。



教室からは次々と生徒が出てくる。



このままじゃ、ルミとアネルマは否が応にも目立ってしまう。



それを避けるために、ルミはアネルマの手を引いて走った。



そしてそのまま、保健室へ。



中に駆け込んだルミたちは急いで扉の鍵をかけ、カーテンを閉め、ようやくホッと息をついた。






 薬品の匂いがする。



 そのツンとしたアルコールの匂いが二人の熱くなった思考を落ち着かせる。



「ふう...」

 

 アネルマは数個並んだベットの一つに腰かけ、ルミアを見つめた。



 改めて見ると彼女は、シェイラの言った通り襟シャツにパンツ、金に濃いブルーの魔導石を散りばめられた髪留めでその長い白髪を留めているではないか。



 シェイラの言っていたことは間違いではないらしい。



 それに、



(何だか、綺麗になった...?)



 もともと彼女は美しい人だ。


 
 細やかで整った顔立ちに、ジンノとよく似た凛とした雰囲気。



 その強さから溢れだす気高さと彼女の持つ上質な魔力もあいまって、多くの人が男女関係なく惹かれる。



 だがそれとは別に、今の彼女はより美しさが際立っているように思えた。



 恋を、しているから?



 例の青髪の男子学生に?



(......まさかね...)



 少なくとも、彼女の黄金の右目が、その美しさを助長しているのは間違いないだろう。






「アネルマさん、どうしてここへ」



 そう尋ねてきたルミアは困惑顔。



 まあ、当然のリアクションだと言えるだろう。



 アネルマとルミアは同級生だが、特別仲が良かったわけではない。



 ルミアのほうはそれから十年姿を消していて、再開したのはつい最近。



 それも敵対関係で。





「...誰かさんの、元気がないから」



 肩をすくめてそう言うと、身に覚えのあるルミアは、はっとして途端にしょげる。



 どうやら自覚はあるようだ。



「...はあ...彼も彼なら貴女も貴女ね。変なところで頑固なくせに、相手の事が気になって仕方がないと...」



 まったく、痴話喧嘩に巻き込ませられるこっちの身にもなってほしいわ。



 冷めた目で呆れたように見つめると、ルミアは顔を伏せたまま、アネルマの目の前のイスに腰を下ろした。





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