櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「...何があったの、何で貴方はこんな所にいるの?」
「それは...」
言い渋るルミアは、椅子の上で背を丸め体育座り。
口をとがらせてアネルマを上目使いで見上げている。
「...誰にも言わない?」
「ええ」
「...シェイラさんにも?」
「もちろん。望むのなら」
そしてようやく、重たい口を開いた。
「......補佐官に、なりたいの」
予想外の言葉にアネルマは目を丸くする。
補佐官
国王、王子、大臣など国の重要人物に付けられる側近であり、一番身近にいる護衛でもある。
主によっては仕事を手伝わされたり、ただ身の回りの世話をするだけのこともあるが基本的には主の護衛が目的だ。
その為、補佐官に必要とされるスキルは、最低でも軍の上官クラス以上の戦闘技術。
それはまあ問題ない。
それから最低限の事務作業を行える知識・能力。
対人スキルも重要。
そこで一つ、必要となる資格が魔法学校の教員免許である。
それほど難しい資格ではない。
魔法学校に通う生徒であれば卒業前に大抵の者が取得できる。
アネルマも勿論、持っている。
卒業前に、いやいやだったが。
今回シェイラの補佐官に任命されるまで必要となるとは思ってもみなかった。
しかしルミアの場合は話が違う。
彼女は十二歳の頃、殺人鬼に襲われこの世界から一度姿を消した。
魔法学校を卒業もしていなければ、教員免許も取得していない。
「学校の卒業認定資格はテストを受ければ貰えるけど、教員免許は実習が絶対必要。だから私は今、光属性クラスの先生と保健室の看護職員をしてるの」
「へえ...」
アネルマは頬杖をついて、熱心に話を聞いていた。
まさか彼女にそんな思惑があったとは。
しかし、
「なんで?」
「へ?」
「どうして補佐官になりたいの?貴女特殊部隊に正式に入隊したばかりでしょう?生粋の騎士である貴女がどうしてお役所仕事も同然の補佐官なんかに...」
それがどうもしっくりこない。
彼女は一か月ほど前、正式に特殊部隊の隊員になった。
功績は十分すぎるほどあったし、入隊試験も合格していた。
当然の采配と言えるだろう。