櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





「はああ!?な、何で!?」



 案の定、シェイラは納得がいかずに大声を上げる。



「ごめんなさいって、ね?許してよ」



「だから何で!?」



「あー、んーなんかこう...そう!女の友情みたいな?生まれちゃったのよねー二人で話してるうちに!」



「......へえ」



 シェイラが珍しく顔をしかめる。



 どうやら相当ご立腹らしい。



 アネルマも気が重くてかなわない。



 変に緊張して唇が渇いてしまい、パサパサだ。



 慣れないことはやるもんじゃないと、純粋にそう思った。



「ま、まあ!とりあえず彼女は怒ってなかったわ!例の男子学生とも何もなかった!ね、それでいいでしょ?さあ、この話はもう終わり!!」



「アネルマ...ちょっと、」



「ほらいいから!もう夜遅いわ、仕事も片付いたことだし、今日は早く寝て明日からまた仕事頑張りましょう!じゃあ...」



「アニ!!」



 部屋の中にシェイラの怒号が響く。



 アネルマは面倒臭そうに目を瞑り頭を抱えた。



「何を隠してるアニ!!」



 流石に数か月間婚約者として共に過ごしていただけある。



 隠し切れない。



 シェイラの声には重みがあった。



 しかし、どんなに怒鳴られても言えない者は言えない。



「...もうっいいじゃない別に!
 女には秘密がつきものなの!だいたい、自分の好きな女のことぐらい自分でどうにかしなさいよ、私なんかに頼らずに!いくじなし!!」



「はあ、ちょ!アニ...!」



 こんな時は敵前逃亡に限る。



 呆然としたままのシェイラを残し、アネルマはそそくさと執務室を出ていった。






 まだ、シェイラに話すわけにはいかない。



 補佐官の件も、ルミがまだ言えずにいる気持ちも。





 彼女の行動の裏にある『極秘任務』の存在も―――



 


 ひとまず



 王子の苦悩はまだまだ続きそうである。
 




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