櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
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フェルダン王国でたった一つの魔法学校
数千年の歴史があるそこの正面玄関はとても美しい事で有名である。
大きなステンドグラスから色とりどりの光が差し込む幻想的な空間。
毎朝八時、そこは魔法を扱う生徒たちで溢れる。
溢れると言っても数は少ない。
初等部から高等部あわせても百人に満たず、中にはその学年のクラスさえ存在しない事もしばしば。
〈炎〉〈水〉〈草〉〈雷〉〈風〉〈岩〉〈土〉〈氷〉
〈光〉〈闇〉
全部で十クラス
これに、王族専属クラスが一つと、オーリングと同じ自然界に既存する魔力を操る魔法使いのクラスが一つだが、このタイプの魔法使いは王族のプロテネス家出身ではない限り滅多に現れない。
このようなケースは多く、他にも〈氷〉や〈水〉〈岩〉などの魔法使いはフェルダンではほとんど誕生しない為クラス自体が作られないことがほとんどだ。
全国で見ても魔力を持って生まれるヒトの数はごくわずかで、全世界の人口の一割にも満たないとされている。
魔法使いは国にとって大いなる財産。
その特殊な力を重宝し、大抵の国では軍隊を作る。
一部では魔法使いとを他国から引き抜き、巨大な軍団を作った例もある。
それほど魔法使いの存在は国にとって貴重で、重要な存在なのである。
ワインレッドの品の良い制服で身を包んだ生徒たちが登校する。
身分制度が色濃く残るフェルダンだが、学校の敷地内に入れば平等社会。
貴族出身の者も王族以外は平等に扱われる。
それでも、学校に集まるのは十八歳以下の子供たちであるわけで、いさかいや不平不満を抱く生徒達も多い。
そんな彼らが憩いの場にしているのが保健室。
約ひと月前、そこに新任の美人看護師兼教師が赴任してきた。
「先生―!」
「なーに?今日はどんな要件?腹痛、それとも頭痛?」
「ふふっ、先生今日も綺麗だねー」
「ありがとう。でも関係ないんじゃない?おだてたって駄目、みんな元気でしょ?ここは病人が来る所よ」
「えーいいじゃん、もうちょっとーー」
「だーめ」
生徒と先生の明るい声が響く。
生徒を軽く受け流しながら優しく笑うのはもちろんルミアである。
この澄んだ声も、美しい白髪も、深い藍の瞳もまさしくルミアなのだが、問題が一つ。
リリー・ホワイト
これが『今』、彼女が名乗っている『名前』なのだ。