櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
◇
まだまだ賑やかな大広間。
口煩いオーリングから逃れたアイゼンは凝りもせず、先程とは違う場所で再び酒をあおる。
「アイゼン隊長ここにいらしたんですか」
「おう、ウィズか。ん?...それ、ラウルか?」
大の男を担いだ一人の騎士がアイゼンの元へやって来た。
担いでいる方はウィズ。知識命の、草木の魔力を扱う魔法使いだ。
眼鏡をかけた賢そうな顔は一切色を変えず平然としている。
対して、担がれている方はというと雷の魔力を扱う魔法使い、ラウルだった。
顔を真っ赤にして担がれたまま眠っているところを見ると、ぐでんぐでんに酔っ払っている事が窺える。
普段は元気いっぱいスポーツマンのラウルだが極端に酒には弱く、
一方でどれだけ飲んでも顔色が一切変わらないほど酒に強いウィズは、よく彼のおもりを任せられるのだ。
「なんだ、ラウルはもうつぶれたのか?」
「ええ毎度のごとく。こいつは弱いくせにすぐ飲むんで。兵舎まで連れて行ってきます」
「うい、頼むぞ!」
そう言うと、眠るラウルを軽々と担いだままウィズはすたすたと去っていった。
その後姿を眺めながらアイゼンはまた飲む。
ジョッキを片手に、目の前の賑やかな光景を見ながら。
アイゼンにとって特殊部隊との日々は最高の酒の肴だ。
こうやって自分たちの周りで交わされる会話も、小さな喧嘩も、楽しくて楽しくてしかたない。
「あ!アイゼンさん!!」
遠くから自分の名を呼ぶ声がする。
見るとフェルダン王国の第二王子、セレシェイラが走って来ていた。
「おー!殿下じゃないか!どうしたんすか、誰か探してるんすか」
「あの、ルミを見ませんでしたか?さっきまでアイゼンさんといたのが見えたんですけど...」
「ああー惜しい!さっきまでいたんだけどなあ、少し見ねえ間にどっか行っちまった」
「......そうですか」
アイゼンの言葉を聞き、見るからにへこむシェイラ。
金髪と茶髪が織り交ざった少し癖のある王族特有の髪、肩まで伸びたそれを綺麗にまとめ上げた彼は、以前よりもずっと男らしくなっていた。
黄金の瞳の王子さま。
神に愛され、生まれながらにしてこの世に存在するすべての魔力を扱える力を持った伝説の王子。
そんな彼は今、絶賛、ルミアに恋をしている。
......のだが、
「なんだ、まだ避けられてるのか?」
「...うっ...」
まったく、不器用どうしの恋愛とは上手くいかないものである。
「心当たりは、あるんだろ?」
「まあ、あるにはありますけど...ああでもしないと意識してもらえないと思ったんです」