櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「盛り上がっているところ水を差すようで悪いが、話はもう一つある」
シルベスターのその声に、皆の視線が再び彼の元に集まった。
「さっそくだが新体制後、初任務だ」
「任務?」
「ああ、それも極めて極秘のものでね」
その一言で部屋の空気がピリリと引き締まる。
そこに集まる全員の瞳が、瞬時に騎士のそれへと色を変えた。
「今回は国の為ではなく、今後の世界の為に闘ってもらいたい」
「...?」
「...お前たちは《オーディン》と言う名を聞いたことがあるか?」
話の内容が読めず、オーリングたちは眉を顰める。
ラウル達も首を傾げ、頭をひねる。
「《オーディン》?俺は知らねえなあ。ウィズ、知ってっか?」
「......《オーディン》には多くの神話や伝説、由来がある。その中でも有名なものを挙げるとすれば...」
「すれば?」
「...戦争と死の神だ」
「戦争と、死...そんな意味が...」
「いや、それだけじゃない」
ラウルとウィズの間で交わされる話に、アイゼンが突然割って入る。
見れば、アイゼンはいつになく真剣な顔で、タバコをふかせ眉間にしわを寄せていた。
「俺の勘が正しければ、国王の言う《オーディン》とは、現代の闇に名を轟かせている暗殺部隊、その呼び名だ」
暗殺部隊《オーディン》
世界各地で秘密裏に暗躍しているという魔法使いの殺し屋集団。
しかし、その実態を確認した者はおらず、ただの噂や幻想にすぎないといわれていたというのに。
「俺も噂程度にしか聞いた覚えはねえんだが、国王の口からその名が出るとなると...」
「ああそうだ...暗殺部隊《オーディン》は、確かに実在する」