櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ











「…ぃ、…んせい、…先生っ!!」


「っあ、ご、ごめん。ぼーっとしてた…」




保健室にいたことをすっかり忘れ、任務を伝えられた時のことを思い出していたルミアは、生徒達の呼び声にはっとする。



「先生疲れてるんじゃない?こっちの仕事と授業までもってほかの先生の二倍働いてるんだから」



「…ふふっ平気。心配してくれてありがとね」



それより授業始まるよ。



そういうと、生徒達は「ヤバっ」と言いながら保健室から急ぎ足で出ていった。



人がいなくなった保健室にふう、と小さなため息がこぼれる。



ルミアの頭に浮かぶのは、彼女に課せられた任務のその内容。



あの話の後、クダンが詠んだ未来に沿い、暗殺部隊《オーディン》の解体の為の計画が練られた。



ある人達は《オーディン》の本隊を壊滅させるために本拠地に乗り込み、ある人達はクダンの占いでは不十分だった情報の収集に奔走し、ある人達は王国に残り各部隊を取りまとめる。



そんな中ルミアに与えられた任務とは、



リリー・ホワイトと名を変えて、ここフェルダンの魔法学校で潜入捜査を行うこと。



そしてもう一つ。



今回の極秘任務において最も重要となるもの。






ーーーガラッ



「...なーに、また来たの?」


「......ベット、貸してください」



授業が始まっているであろう時間帯なのにやってきた一人の少年。



目元が隠れるほどに伸びきったボサボサの青い髪。


背は高そうだが、猫背の為にルミアとほぼ変わらないように見える背格好。


低く響く男の声。



そんな少年は、ルミアの許可を得ることなく、保健室のフカフカの白いベットに身体をダイブさせる。



その後わずか数秒で深い眠りについてしまった。



彼の気の抜けた寝顔をのぞき込みながら、ルミアは柔らかな笑みを浮かべる。






もう一つの極秘任務とは、目の前ですぅすぅと寝息を立てて眠る彼ーーユウ・アルシェの護衛なのである。



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