櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ






 朔夜が明け、死の淵から生き返ったルミア。



 彼女の為に咲かせたサクラの花びらと、柔らかな雪が世界を彩る中



 ルミアがあまりに可愛らしくはにかむものだから



 たまらなくなって、シェイラはキスをした。





 フェルダンと言う国が好きで



 その国に住む人たちが大好きで



 全ての人を平等に愛し、許す彼女だから。



 自分の事はその中の一人にすぎないんじゃないかと思ってしまって。





『俺も好きなんだけど』



『え、...』



『大好きなんだけど』





 あいつらばっか見ないで、俺も見てよ



 そう言うと、彼女は頬を真っ赤にさせていて。



 その時はじめて自分を男として認識してくれたかなと思ったのに。






「んで、その日以来、お嬢が口をきいてくれないと。挙句の果てに避けられているわけだ」



「うう~っそんなすっきりまとめないでくれます?がちでへこんでるんで...」



 落ち込むシェイラはやけ酒を飲む様に、アイゼンから奪ったグラスをぐいっと煽る。



 そんな様子を見て、アイゼンは笑った。






「あはは!悩め悩め、若きものよ!」



「アイゼンさん...」



「いいか、これまでこの国、いやこの国に限らずこの世界は永き歴史を紡いできた。紡いだ歴史の分だけ人がいる。人の数だけ悩みも悲しみも喜びもある。それらすべてを経て、人は強く、強く成長するのだ
 だから悩め。人とはそれが出来るからこそ人となり得るのだから」





 シェイラは目を丸くしてアイゼンを見つめた。



 らしくないしっかりとした口調と姿に圧倒される。





「セレシェイラ殿下」



「!!はい」



「悩みなさい。人と触れ合い、国を支え、まっすぐに生きなさい。迷っていいんだ、間違えてもいい。それを恐れる必要はない。俺が、俺達特殊部隊がいる!困ったら頼れ、な!」



 ニカッと笑い、アイゼンはばしばしとシェイラの背中をたたいた。



 ごほごほとむせるシェイラを置いて「おっ酒が無くなっちまった」と立ち上がり、アイゼンはフラフラとした足取りでその場を離れる。



 ほんの一瞬だけ垣間見えた、普段はけして見せることのないアイゼンの一面。



 静かな怖さのようなものを孕んだ強く凛とした表情を初めて目にしたシェイラは、それから一時、その場から動けなかった。



 ただただ呆然として、人波に消えていく後姿を見つめていた。



 

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