櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
炎、闇、水、雷
様々な魔力の魔法が生徒達に向かって放たれる。
ユウを始め生徒達は死を覚悟し、ロランたちもまた巨大な爆音と共に彼らの確実な死を想像した。
しかし
生徒たちに向かって放たれた魔力はまるで何かに吸収されるように消え、銃で撃たれたはずのロランは倒れることなく目を見開いて立っている。
そして彼の前に立っていたのは、長く美しい白髪を翻す純白の女性
ルミアだった。
「せ、先生...?」
「言ったでしょ、私の傍を離れないで」
ルミアは微笑みウインクをしながらユウにそう言う。
それはもう可愛らしいことこの上ないのだが、状況が状況なだけに反応に困る。
「ユウ、皆と一緒に居て。全員守らなきゃ」
「守るって...あいつらの相手をするっていうのか!!?そんなことしたら先生が死んじまう!あいつらは人殺しなんだ!なめてかかったら...」
「死んじゃう?一つ言っておくけど、ユウも私の事をなめないで。私強いのよ実は」
私は死なない。絶対に。
ルミアはそう言うと、視線をユウからロランに向けた。
(白髪の...女...)
ロランは目を細めて、突如ユウの前に現れた女性を凝視する。
同時に、ここへ来る前話していた内容を思い返していた。
暗殺部隊《オーディン》に所属している魔法使いには占星術師もいる。
ルノーと名乗る年老いた男。
彼は星を読み、ロラン達の仕事がより確実に行われるよう助言するのだ。
その彼が今回ロランに言った事はただ一つ。
“白い《魔王》に気を付けろ”
《魔王》と聞いてロランが思い浮かべたのは一人だけ。
勿論、ジンノだ。
ルノーはロランに言った。
『見えたのは、青い空をバックに白い大地の上に立つ純白の女性。彼女は真っ白な髪を風になびかせて空を仰ぐ。手には氷の刃を持ち、白い肌には滑らかな絹の布を』
『...魔王というのは』
『彼女の手は赤く染まっているのです、氷の刃も、彼女の肌も。しかし彼女は後悔していない。楽しんでもいない。己の信念に従っている。その信念にはフェルダンの魔王と同じものを感じます』
彼女こそ《白き魔王》
『気をつけなさい、彼女は貴方の手に負えない。見つけたら避けるのです。相手にしてしまえば《オーディン》そのものが危ない』