櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
ルノーの忠告を思い出し、改めて目の前の女性を見つめる。
そんな事有り得ないと思った。
《オーディン》が潰されるなど有り得ないと。
だが、ルノーは最後に付け加えた。
《白き魔王》はフェルダンの盾を完成させる最後の一人だと。
フェルダンの盾とは王家を守る特殊部隊の事。
つまり、《白き魔王》は十人で編成される特殊部隊の最後の一人という事になる。
もしその白い魔王が本当に特殊部隊の騎士だとするなら、脅威になるのは必至。
目の前の白髪の女性が、ルノーの言う《白い魔王》であればの話だが。
(とてもじゃないが、そうは思えん...)
見れば見るほど、彼女はか弱いただの女性だ。
「お前は誰だ、名を名乗れ」
「あら、人に名前を尋ねるときは自分から名乗るものだって習わなかった?」
「......いい度胸だな、この状況でよく笑っていられる」
「私の取柄なの。度胸は人一倍ある」
ルミアの好戦的な姿勢と自信ありげな笑みに、ロランは愉快そうに口の端を上げた。
「いいね...強気な女は嫌いじゃない。俺はロラン・アルシェ。暗殺部隊《オーディン》のボスさ。お前は?」
「リリー・ホワイト。ただの魔法学校の教員よ。あとは保健室で皆のお悩み相談を聞いてあげるくらい」
「その割にやたらと戦闘に慣れてるようだが。さっきはどうやって魔法を防いだ?あんたは見たところ光属性の魔法使いだが、光属性に結界魔法は存在しない」
「教える必要ある?」
「...ハハッそうだな、じゃあ実戦で見せてもらう」
守ってみせろ。
ロランはそう言うと椅子から立ち上がり、ルミアに向かって魔法を放つ。
巨大な氷の龍が姿を現し、飛び込んできた。
(氷属性か...)
さすが暗殺部隊のボスだけあって、部下とは比べ物にならないほど強い力がルミアに向かってくる。
〈ブライト〉ブランネージュ・ミラー
その呪文と共に、ルミアとユウ、生徒たちの周りに複数の円形の鏡が現れ、ロランが放った水の龍の魔力を全て吸収してしまったのだ。
ロランたちはそれまでの余裕たっぷりな表情を初めて崩す。
それだけ衝撃的な光景だったのだろう。
自分たちの力が弾かれた事実と、初めて見る魔法の存在に。
ロラン達だけではない。
生徒やユウまでも目を丸くする。
「勘違いしてるようだから教えてあげる。貴方たちは光の魔力を治癒しか能のない軟弱な力だと思ってるでしょう。でもそれだけじゃない」
この魔法は、通称『白鏡(しろかがみ)』
ルミアが造った魔法であり、光属性の中で最も強力な結界魔法だ。
「光の魔力の本質は、他の魔力との共有と調和。この白鏡は全ての魔力と溶け合い、いかなる魔法をも無効化する。知らなかったでしょ?こんな技があるなんて」
人はあるものを最弱と決めつけるとそれと同時に限界を決めつけてしまう。可能性を切り落としてしまうのだ。
「全ての事象において限界は存在しない。追求し続ければ可能性は無限大に広がるわ。ユウ、もちろん貴方も」
「!!」
「恐れないで、貴方は父親とは違う。魔法が恐いのは私も一緒よ、だから誰かの為に使うの。誰かを守るためにね」
ルミアの言葉は、ユウの心にまっすぐ届き、深く響いた。