櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
そんな中、ロランはルミを見て笑みを浮かべていた。
滅多に見せない楽しそうな笑みを。
「なるほど、外部の攻撃を調和により吸収したか。かなりの構築技術と純粋で強力な魔力を要するはず。それも治癒魔法で培った繊細な力をもってすれば可能っていうわけだな
確かになめてたよ。素晴らしい力だ」
「まあ!ありがとう、褒めていただけるなんて光栄」
「気に入ったよ。お前が欲しくなった」
「......は?」
たった一度、ロランにはそれで十分だった。
心がルミアに引き寄せられる。
ルミアの力を、本能が求める。
久し振りの胸の高鳴りに、ロランは目を輝かせていたのだ。
彼女が、
彼女の力が欲しいと。
「こちらに来い、お前の力は教員なんぞの為に使うべきではない。俺がお前を最上の形で輝かせてやる」
「...いやって言ったら?」
「力ずくで捕えるまで」
ロランのその言葉を聞いた途端、部下たちが一斉にルミアに向かって走り出した。
ルミアは素早く辺りを見渡す。
敵の数は六人。
使える魔力は先ほどの攻撃で確認した。
それぞれから繰り出される技をギリギリで躱しながら、ルミアは考える。
正体を明かすことを禁じられているうえ、ルミアの演じるリリー・ホワイトは光属性の魔力しか使えない。
(ばれない程度に、時間稼ぎだけできれば...)
そう判断すると、ルミアは一番手前に迫ってきた敵の懐にするりと入り込み、腹部に一発。
前のめりに身体が崩れた所に、下から顎を蹴り上げる。
鍛え上げられた重い一発に、その敵は完全にのびてしまった。
次に背後から迫ってきた二人の敵うち一人の顔前に掌をかざし
〈ブライト〉シュティレ・ルーエ
と呪文を唱える。
静かなる眠りの魔法。
複数人を同時にかけることは出来ないが、魔力の純度が高ければ高くなるほど眠りは深く長くなっていく魔法だ。
ルミアの場合、純度は最上であるため効果は一瞬で現れ数日間続く。
魔法をかけられた敵も、次の瞬間には力の抜けた人形の様にその場倒れてしまった。
もう一人の敵も一度攻撃をかわした後で、背後から同じ魔法をかけて倒してしまう。
彼女の戦い方はとても洗練されていて、軽やかな動きは美しいとさえ思えるほど華麗だった。
「...すげえ」
「あれって本当に先生?」
「別人じゃね?」
生徒達は驚きのあまり口をぽかんと開けて戦いに見入る。
今まで教室や保健室で話をする姿しか見てきていないのだ。
まさかこんな風に戦うことができるなんて。