櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ






 二人が兄妹喧嘩を繰り広げる中、ユウは呆然と二人の姿を下から眺めていた。



 確かに彼らはリリー・ホワイトとロゼン・ブラックと言う教師に間違いないのに



 今見ている二人は互いを違う名で呼び合う別人のようだった。





 ジンノの言い合いから逃げるようにルミアはユウの前にやってきて腰を下ろす。



「...せ、んせい」



 何が起こっているか分からず動揺している彼に、ルミアはとびきり優しい笑みを浮かべ、そっと頬に手を伸ばして言うのだ。



「ユウ、よく頑張ったね」



 頬を撫ぜ、乱れた髪をとかしながら。



 それを耳にした瞬間、ユウの頬を温かな何かが伝って、落ちていく。



 後になって、それが涙だと知った。



「よく頑張った。私を助けようとしてくれたのよね」



「......ッ!!」



 彼女の柔らかな声が、どこまでもユウの心を震わせる。



 涙をこらえる彼を抱きしめて、ルミアは耳元で囁いた。



「ありがとう、ユウ」



「...っう、うぅ!」



 その瞬間、堰を切った様に涙が次々と溢れ出て止まらなくなった。



 ルミアの首元に顔を埋め、ユウは声を殺して泣いた。



 ルミアは背中をさすりながら魔法を使う。



 光の治癒魔法を。



 傷ついたユウの身体が、光に包まれると同時に癒えていく。



 一番重傷だった腕と足を的確に。



 その最中、ジンノは自分が来ていたシャツをルミアに被せた。



 まだ下着姿だったことにそこでようやく気が付き、ルミアはしかめっ面のジンノに向かって感謝の気持ちをこめてウインクを。



 それを目の端で確認したジンノは口元をわずかに上げる。



 大方、どういたしましての合図だろう。



 それからしばらくユウの治癒をしつつ、彼の背中をさすっていると自分の異変に気が付いたユウが涙にぬれた顔を上げた。



 そして、ルミアはまた彼に微笑む。

 


「あとの事はすぐ終わる。だからちょっと待ってて」



 みんな、ユウの治療をお願い。






 生徒たちにそうお願いし、ルミアは再び立ち上がった。







 
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