櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
長らくほったらかしにされたロランの前にルミアとジンノが立つ。
「兄さん、シャツが大きい」
「知るか。大体どういう流れでそんな格好になったんだ」
「これには深ーーい訳がですね」
まだ二人は小声で口論を続けており、ロランはその内容を興味深げに耳を傾けて聞いている。
聞けば聞くほど、彼らはただの教師とは思えない。
生徒たちがいくら『先生』と呼ぼうとも。
何より、ルミアは先程ロランがその力で倒したはずなのだ。
致命傷ではないにしても、意識は完全になくなったはず。
そう思って彼女が倒れていたの場所に目線をやると、そこには確かに倒れたままの彼女がいる。
傷口からは真っ赤な鮮血がこぼれて広がっている。
なのに黒髪の男といる彼女は、無傷でピンピンしていて、ニコニコ笑っているのだから混乱するのも無理はない。
「あれは、変わり身の魔法か?」
まだ言い合いを続けていた二人に向かって、ロランが尋ねる。
その声にヒートアップしていた言い合いは一時中断。
ルミアがにっこり笑って答えた。
「そうよ。私の変わり身」
「...信じられん。目を疑う出来だ、あんなに完成度の高い擬態は見たことも聞いたこともない」
「そう?でも、兄さんはすぐ気付いた。こんなんじゃまだダメ。もっと完成度を上げなくちゃ」
「なるほど...やはりただの教員ではないという事か...」
その言葉に二人はニヤリと笑う。待ってましたと言わんばかりに。
「そうさ、待たせて悪かった。名乗るのが遅れたな」
そう言うとジンノは、変装の為にぼさぼさにしていた前髪をさっと整え伸び切っていた髪を一つにくくる。
そして最後にサングラスを。
そこでロランはようやく確信する。
《魔王》ジンノだと。
「暗殺部隊なら俺の顔ぐらい知ってるだろう」
「...大方の察しはついていたが、やはり...!!という事はお前も特殊部隊か」
「ええ、リリー・ホワイトじゃない。本名はルミア、ルミア・プリーストン。貴方達がここに現れると知って一か月以上前から魔法学校で働いてたの。でも教師はここまで。これからは騎士として貴方を倒す」
「バカ。俺が倒す」
「兄さん!!そうやってすぐ何でも横取りする!!大バカッ!」
「手を出すのが遅いお前が悪い、アホ」
「マヌケっ」
「おいおい、兄妹喧嘩はよそでやってくれ」
ロランは呆れた様にそう言った。