櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「まったく...お前たちが特殊部隊だなんて信じられん」
「...闘えば分かる?」
「ああ」
ルミアはロランからジンノへ視線を移す。
「兄さん」
「俺がやる」
「...もうっ分かったわよ!頑固者!じゃあ、五分ちょうだい。倒さないから」
お願いっ
手を合わせてルミアに懇願される。
どんな動作をされようと彼女のお願いに弱いジンノは、ため息を付いてその場に腰を落とした。
「五分だ。約束は守れ」
「了解」
にっこり笑うと、ルミアはすたすたとロランの前に進み出た。
「約束だから、五分だけ」
「はっ、俺もなめられたものだ。これでも暗殺部隊のボスだぞ。部下も三人いる、いくらあの名高い特殊部隊と言えどそう簡単に勝てるかな」
「別に。勝つ必要は無いもの。今からやるのは『個人授業』よ。ユウのね」
それを聞いたユウは、目を丸くした。
「ユウ、よく見てなさい。これが貴方にする最初で最後の授業なんだから」
さあ、始めましょ
次の瞬間、ゴオォ!と音をたてて吹雪が舞った。
視界を真っ白に染める強力な吹雪。
ロランさえ思わず顔をしかめ、腕で顔を覆う。
その吹雪の中心で、青い魔力の炎を自身の体に宿し、彼女は笑っていた
美しい白髪を吹雪の中でなびかせ、紅に縁どられた唇は弧を描く
目の淵は薄紫の模様が浮かび、彼女の片手が自身の顔を遮るように握るのは、妖しく笑う狐の能面
腰元からは雪色の真っ白な九本の尾が揺らめく
「...まさか!!!」
「そんな、...嘘だっ!」
ロランとユウが驚愕の眼差しを向ける先で、ルミアは静かに口を開く
〈牙獣朗々〉
「.......雪白狐(ゆきびゃっこ)」
そう。
彼女の姿は、ユウがその魔法を使った時のそれと酷似していた。
だが、完全に一致しているわけではない。
より美しく
より妖しく
より、洗練された完成型
ルミアは、彼らアルシェ一族の〈牙獣朗々〉を完全にものにしていたのである。