櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「フェルダン王国国王軍近衛兵特殊部隊十席が騎士、ルミア・プリーストン
...推して参ります」
その一言を皮切りに、二人の戦いは始まった。
はじめ、ルミアは劣勢だった。
ルミアは確かに強い。
しかし、目の前のロランという男もまた、曲がりなりにも名高い暗殺部隊《オーディン》のボスなのだ。
逃げるという言葉を知らず、好戦的なまでに真っ向から戦いに来る。
その力は互角と言っても過言ないほど、拮抗していた。
しかしそんな中ルミアの足を引っ張っていたのが、〈牙獣朗々〉で作り替えた自分の体だった。
身体そのものを改造する魔法ゆえ、慣れないそれに動きをとられてしまうのだ。
対して、同じ魔法を使うロランにとっては最早使い慣れたもの
自分の体以上に馴染み、十二分にその能力を発揮できている。
流石〈百獣〉と言うだけあって、スピードもパワーも人間離れしたレベルと言っていいだろう。
もしかしたら力だけでいうと、ルミアじゃ適わないのかもしれない。
使ってみてわかるが、ルミアの使う〈雪白狐〉はパワータイプではないからだ。
問題はそれだけにとどまらない。
一番は脚力。
ロランの攻撃をかわそうと横に飛びのこうとしたら、
「きゃっ!!!」
ルミアの軽い体は、力加減を誤ったジャンプにより思った以上に飛んでしまった。
その上、
ゴロゴロゴロ、ドンッ!!!
「~~~ッいったあーーい!!!!」
予想外の動きに着地をミスったルミアの身体は、ゴロゴロと床を転がり壁に激突するという、なんとも間抜けな結果になってしまうのだった。
腕の力はないが、足の筋力は大幅にアップされているらしい。
もう、自分の足が、自分のものと思えない。
そんな体中の不思議な感覚に陥りながらも、ルミアは驚くべき速さで新しい自身の体に順応し、思いのままに扱えるようになっていく。
戦闘開始後一分がたった頃には、ルミアは完全に新たなその力を完全にものにしていた。