櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





ロランが切り込んだかと思えば、ルミアはひらりと宙を舞い攻撃をかわす。



ふわりふわりと、小さく柔らかな雪の粒のように、重力を無視したその身体は、音を立てず空気の流れに逆らわず、勝手気ままに飛び、はねるのだ。





ロランは徐々に洗練されていくその動きに目を見張る。



その姿は、かつてロランの右腕と恐れられた、彼が唯一認めていた殺し屋である女性と瓜二つだったから。



一つ一つの動きが、闘い方が、ユウの母を彷彿とさせた。



ただただ美しく、躍るように、風に舞う雪のように闘っていた彼女に。



「っざけるな...!!!」



途端に、自分の胸のうちにムクムクと湧き上がってきた怒りにも似た感情を、ロランは自身の拳にのせる。



氷の刃と化した彼の腕は、そのままルミアの懐に向かって突き刺された。



深くルミアの体を貫く、ロランの腕。



しかし、貫かれた当の本人は、狐の面の下で小さくほくそ笑む。





〈アイス〉スノウパウダー


『雪化粧』




その呪文の直後、ルミアの身体はサラサラと粉雪になって消えてしまった。



ロランはあわてて周囲を見渡す。



周りにあるのは、



雪、雪、雪。



風に乗って雪があたりを取り巻く。



その雪にまぎれて姿を現す、真っ白な彼女。



その姿は一つや二つじゃない。



四つ、五つ、



まだまだ増えていく。



ロランは見覚えのあるその魔法に、顔をしかめた。



「『雪化粧(ゆきげしょう)』か、...また、その技をこの目で見ることになるとは...」



「ふふっ、さあ...どうします?」



ルミアの扱う〈雪白狐〉はパワータイプではない。



九尾を得たまやかしの存在である妖狐の本質は、人を妖しく魅了し翻弄させることにある。



ルミアにとって、もって来いの力だった。



「ふん、どうするもなにも...『雪化粧』は幻覚魔法だ。騙すだけのそんな魔法、恐るるに足らん」



そう言ったロランに向かって、雪に紛れる狐のうち一人が駆け出した。



いつの間にか作り出した氷の刀を片手にロランに切りかかる。



これもまた幻覚だとふんでいたロランは、刀を振り上げる狐の能面を被った彼女からふいに溢れ出た殺気に、ゾクリと背筋を強ばらせて身を構えた。



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