櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
次の瞬間、彼女の刀は間違いなくロランの頬をかすめる。
なんとか避けるが、今度は別の方向からもう一人彼女が現れ、崩れかけたロランの体に重い蹴りを一発くらわせる。
「ぐはっ!!!?」
魔力を帯びたその一発に、頑丈なその身体は吹っ飛ぶ。
なおも立ち上がったロランは口元に血をにじませながら、困惑に顔を歪める。
(なぜだ...!!?あの女が使った『雪化粧』はただの幻覚だったはず...!力など持たずにただ翻弄させるだけだった、なのに、今の蹴りや動きは、幻覚なんて生ぬるいものじゃない...!ルミアと名乗った女そのものじゃないか!!!)
その戦闘を見ていたユウたちも同様に困惑していた。
しかしその中で、ジンノだけはあっさりと見抜いてしまう。
「...なるほどな、〈雪白狐〉の持つ幻覚魔法とお得意の変わり身魔法を組み合わせたわけか」
ロランもしばらくして同様の考えに至った。
彼女達は、ただの幻覚ではない。
ルミアの使う変わり身の魔法を応用し、限りなく本人そのものによせて造り上げられた、形を持つ幻覚なのだと。
つまり、ここから見える幻覚の全てが本体である彼女と同等の戦闘能力を持っているということになる。
信じられないと自分の考えを打ち消したくなるが、それ以外の考えが浮かばない。
そんな事を可能にしてしまう魔術の腕にも感服するが、何よりそれを実現する彼女の魔力量が異常だった。
〈牙獣朗々〉は、それを使うだけで膨大な魔力を要する。
そしてその状態を維持することにもかなりの量を必要とするのだ。
使い慣れているロランでさえ、ルミアとのわずか数分の戦闘で魔力の半分以上を使ってしまっている。
この体の維持すら厳しくなっているこの状況で、ルミアは平然とそれをやってのけたのだ。
フェルダンの特殊部隊
彼らが最大の脅威と呼ばれる理由を、その時初めて実感する。
底なしの魔力
それを自在操る完璧なコントロール
ロランが時間をかけて必死に身につけてきたものを簡単に凌駕する圧倒的戦闘センス
(...適わないのかも、しれない.......)
ロランの心の隅に、そんな考えが顔を出す。
でも、
ロランの目から戦いの炎が消えることはない。
例え敵わなくとも、
(簡単に、負けを認めてなるものか...!!!)