櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
次の瞬間、
ロランは数ある幻覚の中から、的確に、本体であるルミアの目の前に飛び出ていた。
ルミアは能面の下で目を丸くする。
「なめるなよ!!俺の身体は獣と同等!嗅覚も聴覚も人並みをとうに超えている!分からないとでも思ったか!!!」
「...すごい。」
狂気に満ちた、ロランの瞳。
幾度となく人を殺してきた者の目だ。純粋に戦いを望んでる、きっと、ずっとそうやって生きていたのだろう。
そして、今まで負けなしだった。
それが今ここに来てルミアと言う若い女の騎士に圧倒されている。
その事実が、ロランの中にある異常なまでの勝利への執着心を滾らせる。
血に飢えた獣へと成り下がったロランは、自身の魔力の際限など気にしなくなった。
〈アイス〉レーベリオン
残った魔力をありったけ使い、ロランは人の背丈を優に上回る巨大な氷のライオンを三匹造り出した。
その三匹は、幻覚の彼女たちに向かって闘い始める。
(数には数で、ってことね...)
一層ひどく凶暴化したロランの相手をしながら、ルミアの頭は逆に冷めていった。
表情から笑みが消える。
その様子を見ていたジンノは、おもむろに立ち上がる。
生徒達の光属性の魔法により大きな怪我の治療をし終えたユウは、突然動き出したジンノを見上げて名を呼ぶ。
「せ、先生?」
「先生じゃねえ。二度と呼ぶな」
「えー、......えっと」
「ジンノだ、クソガキ。だが名前は呼ぶな。お前にだけは呼ばれたくない」
「あ、...はい。あの...どうしたんですか、急に立って」
「...ルミアが『遊び』をやめた。だから動く」
「え、『遊び』って...今までのが全部!?」
信じられない事実にユウはぽかんと口を開ける。
しかしジンノはさも当然だと言わんばかりの顔で立っている。
「あいつは戦闘をするとき絶対に笑わない。人を傷つけること、それがどれだけ重いものかを知っているからだ。逆に言えば、笑ってるときは戦闘訓練かもしくは自分の力や新たな魔法を試したりする『ごっこ遊び』って相場は決まってる」
それに
「...タイムオーバーだ」