櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
目の前に広がった鉄の塊には見たことがない文字がびっしりと書き連ねてある。
これはこの国の歴史。
錬金術師一族のみが読むことのできる文字で、数千年前から綴られ続けたフェルダンの全てだ。
もちろん今現在の歴史もアイゼンの手によって書かれ続けている。
先日の昨夜の戦いも、全て。
刻まれた文字を指でなぞりながらアイゼンは酒を飲む。
今アイゼンの目の前に書かれているのはフェルダン王国が誕生した当初の歴史。
それを読みながら思い出すのはフェルダンの人々。
特殊部隊の騎士達。
そして
シェイラとルミア
かたや伝説の王子、かたやオルクスの騎士の二人。
彼らはまだ知らない
神の血を引く王族と聖者オルクスとの、本当の因縁を。
きっと苦労するでろう二人の恋路を想い、再び酒をあおった。
「さてさて、二人はこれからどうなっていくのやら...」
アイゼンはそう呟くとソファに座りなおす。
「まあなんにせよ、これからも、記すことに困ることはなさそうだ」
多くの文字に囲まれ、アイゼンは笑った。
ここにさらなる歴史、新たなる王と強き姫との賑やかで数奇な日々が刻まれるのは遠くない未来の話。
アイゼンの胸元で赤い石がきらいと輝いた。
*
fin.side by Aizen