櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
◆
「...五分なんてあっと言う間。なんだか物足りなかったなー」
急に隣へ現れた彼女に、ユウと生徒たちは驚き飛びのく。
「せ、先生!!いつの間に!!!」
「さっき」
ルミアはいつ間にかユウの隣に座り込み、不機嫌そうに唇を突き出していた。
今、ジンノとロランは闘っている。
完全にジンノ圧勝。
ロランの意地で何とかもっているが、もう少しで彼も倒れるに違いない。
傍目から見てもそれが明らかだった。
なぜならジンノは、ロラン以上の化け物だったから
それよりも気になるのは
「兄さん、壊し過ぎじゃない?」
ジンノの破壊行動。
第三校舎の壁や屋根がみるみるうちに壊されて穴だらけになっていく。必要以上に。
「兄さんったら...何だかいつも以上にイライラしてるわ。なに怒ってるのかしら、ちゃんと時間も守ったし相手も譲ってあげたじゃない」
ルミアが怪訝そうに呟く。
〈牙獣朗々〉の魔法はすでに解けていて、ふわふわな尻尾も狐の能面も全てなくなり元の姿に戻ったルミア。
兄の大きなシャツ一枚を下着の上に身に付けただけの姿は、本人が思っている以上に色っぽい。
自身の放つ色香にも気づかず惜しげもなく肌を見せびらかす愛しい妹
彼女をそんな姿にした元凶に対する怒りからの猛攻だと、彼女が気づくことはないのだろう。
(お兄さんも大変だな...)と、ユウは憐みに満ちた目で戦う兄の背中を見つめた。
「う゛がああー!!!」
ロランの鈍い声が響く。
ルミアとの戦いでかなりの魔力をなくしたのが敗因の一つだろうが、いかんせん怒りを秘めた魔王を止めることは出来なかった。
地面に倒れ傷だらけで動けなくなったロランを、ジンノは見おろす。
なおも抗おうとするロランを黒光りする革靴で押さえつけて睨み付けた。
ルミアもとことこと近づきジンノの後ろからロランを覗き見る。
「あちゃー派手にやられたね。いつもはある程度我慢できるのに何で今回は出来なかったかなあ」
「うるせえな、どうでもいいだろう」
明らかにイライラした口調のジンノに、ルミアも少しばかり腹が立ち口調がきつくなる。