櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
...
『任務完了』
その言葉が遠い異国の地で《オーディン》本部解体を終了させた仲間の元に報告されてはや二日。
ロランを始めとした《オーディン》の一味たちは、世界各国の悪人たちを取り締まり幽閉する監獄フィンスター・フリートホーフ、別名『暗黒の墓地』へ連れていかれることになった。
そしてユウは、――
「...へ?今、なんて、」
「だから、これから貴方はここフェルダンの国の人間になるの!」
まったく、何回も言わせないでよね!
頬をぷうと膨らませて腕を組み、そう言う目の前のルミアを見てユウは驚きのあまり口をぽかんとあけて何ともマヌケな顔で言葉を失っていた。
ユウは曲がりなりにもロランの息子だ。
彼らがどんな仕事をして、どれだけ人を殺してきたか知っている
大罪人の息子であることがばれた以上、魔法学校に通う事もフェルダンに残ることも出来ないと覚悟していた彼は、病室のベットの上でうけたその宣告を信じられなかった。
「何よーフェルダンに残るの不満なの?」
「そ、そんな事!!...もったいなさすぎるよ...俺、あの人の子供なのに」
困惑しているユウに、ルミアは小さく微笑む。
「そんな事気にするほど、この国の人は神経質じゃないの。それにユウは悪いこと何もしてないじゃない。大切なのは貴方に意思があるかよ。ここに残るか、それとも別にやりたいことがあるならそれもいいし...とにかくユウ、貴方の意志が大事なの」
あとは、自分で決めて。
どんな答えでも、私たちは貴方の考えを尊重するから。
ルミアはそう言うと、ユウの頭をポンポンとして病室から出ていく。
人がいなくなった病室で、ユウはしばらくボーッと余韻に浸っていた。
まさかこの国に残れるなんて、思ってもみなかった。
ユウは窓の外を見やる。
暖かな春の日差しとさわやかな風と、それに乗って舞い散る桃色のサクラの花
この美しい国に自分は残れる
それまで湧かなかった実感が、時間差でやってくる
自然と笑みが生まれる
(母さん...俺、やっと自分の居場所が見つかったみたいだ...)
素敵な人達と
美しいこの国と
ユウの心は最初から決まっていた。
そして
同時に、新たな夢と目標と、決意をその胸に宿して。