嫌いじゃないの【短編】
嫌いじゃないの 本編
もし、私が好きって言ったら、
「なら、俺にキスすればいいんじゃないの?」
って妙に尖った声で唇を近付ける。
余裕?そんなもの、ないことくらい知っている。
だって、私の肩をつかんだとき少しだけ布が湿ったから。
初めてキスしたときのように震えていたから。
自分より頭1つ分くらい大きい、いつもむっつり顔の精一杯の強がり。
普段しないけれど、強引にイケメンの如く唇を奪ったらどういう反応をするんだろう?
そんな好奇心からでーーー。
私が彼の唇を奪った日はほんとうに唐突だった。一緒にご飯を食べ終わって、プラネタリウムを見に行った。
この日は平日だったからかなり人は少なかったのだろう、席に着いたとき、周りには人がいなかった。
ちらほらとカップルは何組かいたようで、それでもそれぞれ離れて座っていた。既にドーム内は薄暗く、もちろんの事静かだった。
それは、彼も同様に。
ブーーーとブザーが鳴り、より一層暗くなる。
ドーム全体が星で散りばめられて、ナレーションが始まった。
この間、私達はずっと繋いでいた。今回は夏の大三角形についてだった。
小学生の時に習っだであろうこの星たちを綺麗に忘れていたことが残念だ。
横を向けば真剣に見て、聞いているらしい。いたずらしたい衝動に駆られる。
その耳にふ、と息を吹きかければ詰まったような呻いたような、少し高めの悲鳴をあげた。
信じられないものを見てしまったといわんばかりの目でこちらを向かないでくれ。
「なにやってんだよ、お前」
僅かに耳が赤くなってる。
「なんか、静かと思って。1番目立つ個性が全部消えてる」
「場所わきまえてんだよ、見習えよ」
皮肉に笑ってみせる。
星を見ろと言わんばかりに宙を指差す。
む、生意気。
手を伸ばして、頭を手繰り寄せる。
「やっぱり存在がうるさい。はい、口チャック」
「は、って…!?」
思ったより、柔らかかった。
あ、なんかちょっと気恥ずかしい。
自分からキスするといつもより過敏に質感とか気にしてしまうんだと新たな発見をして。
そんな余裕綽々に冷静な自分がいたけれど、彼は私とは反対に……ムードぶち壊し、目は閉じるもんでしょ。
唇を離して、彼の姿をしげしげと見つめた。顔が真っ赤で口が半開き。目は少し、潤んでいる。
この表情に自分がさせたのか、という興奮が湧き上がった。
そして我に返ったように、眉を吊り上げてわなわなと震えだした。
顔はどんどん赤くなる一方だ。
「お前っ…!」
「声静かにしてって。うるさい。また口塞ぐけど?」
「うっ…」
普通俺様男子だったらプラネタリウム放り出して、陰に隠れてイチャイチャするもんだよ。
それが出来ず、素直に黙って顔を覆って「…あとで覚えてろ」って虚ろな表情でつぶやく彼の性格は嫌いじゃない。
むしろ好き。
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