203号室で暮らそう
「日浦さん、9番入っていいわよ」
 
レジチーフが、いつの間にか背後に来ていて、耳元でそう囁いた。
 
9番とは、レジの9番列のことではなく、休憩という隠語だった。
 
やれやれ、やっと休める――。
 
私は半ば疲弊しながら、1階フロアの、銀色の観音開きのドアをくぐり、その奥にある休憩室へと入った。

「ああ、日浦さん。ちょうどよかった。こちらいらっしゃいよ」

「おはぎ、あるわよ。食べて食べて」
 
小柄で目尻にシワのある武藤さんと、丸顔でどっしりとした体格の佐原さんが声をかけてきてくれた。
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