203号室で暮らそう
「……はい」
 
ふたりのおばちゃんの言葉にも、まともに返事をすることすらできなかった。

「――あら。ずいぶん元気ないわね。いつもの笑顔はどうしたの?」
 
いつもの、笑顔……。
 
陽景くんが褒めてくれた、私の笑顔――。
 
彼がいなくなってしまったと共に、私の表情もどこかに行っちゃったよ。

「……飼っていた猫が、いなくなってしまって……」
 
咄嗟に出た嘘だった。
 
だって、この心境をどう説明していいか解らなかったから。

「ああ、それは気の毒に……」

「ペットは自分の一部ですもんね。淋しいでしょうに」
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