203号室で暮らそう
「よっぽどショックなのねぇ。でも、大丈夫。きっと猫ちゃん、帰ってくるわよ」

私を励ますように、武藤さんはにっこりと笑顔をくれた。
 
だけど、私は笑顔を返すことができないでいた。
 
いつもなら、自然と、口角を上げることができるのに。
 
……笑顔って、どうやってつくるものだったっけ。
 
忘れちゃったよ。
 
これじゃあまるで、出会った頃の陽景くんと一緒じゃないか。
 
失恋したてだったという、表情を無くしていた陽景くん。
 
――失恋。
 
そっか、私。
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