203号室で暮らそう
永年大事にしていたぬいぐるみを、自分が知らない間に、親に捨てられたかのように、突然のショックで。
 
時すでに遅し。
 
どんなに親に当り散らしても、どんなに涙を落としても。
 
二度と、自分の元へ返ってこないんだ。
 
私、陽景くんのお家も、連絡先も解らない。
 
一度離れてしまったぬいぐるみは、自分の足で戻ってくることなんてしない。
 
私は絶望感に打ちひしがれながらも、はっと我に返った。

「時間なので、レジ、戻ります……」

「そう。元気出してね」
 
佐原さんの言葉はありがたかったけれど。
 
元気の源がないのに、どこからその元気を湧き上がらせたらいいのか、解らないよ――。
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