進む道。
「そんなもの、あるはず無い。」
変わらず強くなる口調に、少し肩を揺らす白沢さん。それさえ気に止めることができない俺は、今まで溜め込んできたものを当ててしまった。
「アンタに何が分かるんだ。俺には…俺には木葉しか居ない。木葉が居なくなったら、俺は…。」
(独りだ。)
はっと、言葉を飲み込んだ。
そうか、"孤立"にピンと来なかった訳じゃない。独りになると言う事実を受け入れられなかっただけなんだ。木葉が居なくなれば、木葉に依存している俺は独りに耐えきれない。優しい木葉はきっと、それに気づいていたんだ。寂しがりという俺の本性を。
ーーだから、姉ちゃんじゃなく俺を選んだ。
俺も分かっていたんだ。
幾ら一番になろうと木葉への鎖を引いたって、いつでも木葉の中には消せない者(姉ちゃん)がいたことに。
木葉の自由を、俺が奪っていたことに。
「嵐君…?」
「は…はは。俺、最低だ。」
「ううん。嵐君は優しいよ。優しくて、寂しがりで、怖がりなだけなんだよ。」
そっと抱き締められる体。ぎゅっと包む柔らかい温度が、目頭を熱くした。
「今まで、何回も心で謝ってきたんだよね。謝って、自分は悪くないって言い聞かせて自分を守ってきたんだよね。理由は分からないけれど、木葉君はきっと…そんな嵐君の事、知ってると思うよ。そんな嵐君だからこそ、一番笑ってほしくて傍にいたんだと思うよ。」
自由の意味が分からなくなるまで、彼女は俺の背中を撫でた。声を圧し殺して泣く俺は、気づきたくなかった答えに問うてみた。
何て言えば良いのだろう。
何て言えば、二人に許してもらえるんだろう。
答えは一つだった。
「独りは、怖いよ。」
「大丈夫。木葉君が消える訳じゃない。私だって、嵐君の傍にいるから。」
「っ…う、ん。うんっ。」
今すぐ木葉から離れるなんて出来ないけど、少しずつでも離れていけば二人は幸せになれるのだろうか。
分からない事が多いけれど、彼女が傍にいてくれるなら、弱い自分を受け止められそうな気がした。
ひとしきり泣いて、落ち着いた俺は自分のしたことに後悔した。子供みたいに泣きじゃくって、我儘をぶつけて、終いにはあやしてもらう。
情けない。と恥ずかしくて赤くなる顔を下げた。
「あ、ありがとう。白沢さん。」
「どういたしまして。」
深くまで聞いてこない白沢さんが、とても不思議に思える。でも、それが白沢さんの優しさなのだと思えば、納得できてしまえた。
花が揺れる。
草が揺れる。
ゆっくりとした時間が流れるこの場所を、俺は自由だとまた泣いた。