進む道。

遅れて教室へ戻ると、木葉の姿があった。先生の、遅いと怒鳴る声を聞き流して自分の席へ。斜め前の木葉に目をやると、いつもの拗ねた顔をしていた。

授業が終わり、目の周りが赤くない事を確認して木葉の側へ。思い当たることがあった俺は、椅子に座る木葉を覗き込んで謝った。

「先に行ってごめんな。」

その間、木葉は一度も目を会わせてはくれなかった。

そんなに先に行った事を怒っているのか。分からない俺は、木葉の周りをいったり来たり。

様子をうかがいながら声をかければ、ガタッと音を立て、教室から出ていってしまった。

いつもと違う木葉の雰囲気に、煩かった教室も静まり返る。

「木葉…?」

改めて名前を呼んでみても、木葉は知らん顔。追いかける事もできなくて、俺はそれを見送った。

「あの…黒城君。木葉君…どうしたの?」

木葉の机で一人悶々と理由を探す。すると、見ていたクラスメイトが心配そうに近寄ってきた。

(俺が一番聞きてえっつーの。)

イライラする気持ちを抑えて、愛想笑いでその場を離れる。木葉が怒る理由の一つとして、思い浮かぶのはあの人しかなかった。

保健室。

扉の前で呼吸を整える。
変な緊張からか、手に汗までかいてきた。

コンコン。

ノックをして返事を待てば、返ってくるはずの声が無い。

「…先生?」

扉へ手をかければ、鍵は空いていた。ソロソロと扉をあけて、中を見渡せばカーテンのしまったベッドが一つ。中は見えないけれど、木葉が居るような気がした。

間違ってるかも。なんて思わない。直感が木葉だと告げているから。

カーテン越しに「木葉。」と名前を呼べば、ベッドの軋む音。

「開けていい?」

無言の返答に悩みつつも、カーテンを開ける。

中には、ベッドの上で体育座りをして俯く木葉がいた。

「木葉、どうした?何で怒ってんの?」

未だに返答はない。
保健室独特の臭いが鼻を掠める。
窓が空いてるのか、カーテンが静かに揺れた。

どうして良いか分からず立ち尽くす俺に、長い沈黙を破って木葉が言った。

「…俺は、もういらないのか。」

「何言ってんの、んなわけねえじゃん。」

木葉の言おうとしている事が分からなかった。俯く木葉に説明を求めても、それ以上話してはくれなかった。

どうしたら良いか、もう分からない。

俺の唯一であった木葉が、いらないと勘違いしている。何故そんな事になったのか、考えれば考えるほど頭がぐちゃぐちゃになって、泣きそうになるのを必死でこらえた。

すると、ガラガラ。と扉の開く音。

入ってきた足音は、俺達のカーテンの前で止まった。

「木葉、嵐。入るわよ。」

声の主は、先生だった。
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