進む道。

鳥が朝を告げる。
俺はそっと目を開けた。

「なんだ、あの夢…。」

重たい体を起こし、昨晩見た夢を思い浮かべた。
傘も指さずに雨に濡れる女の子。
長い黒髪から白い顎のラインに伝う雫は、何処か泣いてるようにも見えた。

彼女を想うと、何故だかキュッと胸が締め付けられ、涙が零れる。会ったこともない、見ず知らずの女の子。だけど、心は何かを訴えていた。

涙を拭い、身支度を済ませる。「行ってきます。」と冷たい扉を開ければ、そこにはいつもと変わらない朝の風景。道中に出会う知り合いのおばちゃんに一人一人挨拶を返せば、大きくなったねえ。と皆口を合わせてそう言った。

「おはよう、嵐(あらし)。」

後ろからの声に振り向くと、そこには幼馴染みの木葉(もくば)がいた。

「おはよ。」

いつもと変わらない挨拶。
いつもと変わらない道。

全てがいつもと変わらない。

ーーー筈だった。

校舎へ入ると、下駄箱に積まれた生徒の山。
皆、意識が無いようだった。
その上で一人佇む姿に、俺は震えた。

ぼーっと何処かを見つめる女の子に、木葉がヤバイだろ。と言葉を溢す。

汗で頬を濡らす女の子。
黒髪から覗く白い顎のラインに伝う雫は、何処か泣いてるようにも見えた。

「まじかよ…。」

無意識に出てきた言葉に、彼女は反応したのか俺をゆっくりと見て一言。

『見つけた。』

消え入るような声で、にっと笑う彼女が泣いてないことを確認すると、彼女の言葉の意味も分からないまま、安心した俺はそのまま意識を手放した。
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