進む道。
No.1

三人で談笑をしていると、朝の職員会議を終え、保健の先生が戻ってきた。『寝不足だ。』と診断を受けた俺は、このまま一限だけサボり。元気な二人は、先生に教室へ戻されてしまった。

チクタクチクタク。静かな部屋に、規則正しいリズムを刻む時計。

「黒城君は、白沢さんと仲良かったのね。」

余り先生と二人になりたくなかった俺は、冴えた頭を無理矢理寝かそうと目をつぶった。

すると、先生が突然話しかけてきた。
ベッドの周りにはカーテンが引かれていたため、表情こそ見えなかったものの、なんとなく先生の声色は暗い気がした。

「仲良し…ってわけじゃないっすよ。さっき会ったばっかだし…。」

玄関で。と倒れる前を又思い浮かべる。

『見つけた。』

彼女は何に対して言ったんだろう。その事が気になる俺は、どうして周りに人が倒れていたのか。なんて疑問は浮かばなかった。だけど、先生はそれが気になっていたらしい。

「白沢さんね、凄く良い子なのよ。…でも、一年前…とある事に巻き込まれちゃって。」

シャッとカーテンを開けて、入ってきた先生の瞳は、眼鏡のレンズ越しにしか分からないけど、不安を物語っていた。

「黒城君がまだ一年生だった頃、ナンバーワン制度って言うのがあったの覚えてる?」

ギシッとベッドを軋ませて、端に腰かける先生。

確かに、その制度について聞いたことがないわけじゃなかった。

"ナンバーワン制度"

一年から三年まで、男女問わずなれる学校の一番。学力の有無や、力の差なんて関係ない。実力行使。この学校で誰も逆らえない存在を決めるための物。校外で生徒が悪さをしないように、校内での喧嘩をさせないために、力で生徒を押し付けるその制度は、世代交代があってすぐ、今のナンバーワンが廃止にしたと聞いた。

押し付けられない自由に生徒が喜び、取り締まる先生達が落胆していた。と楽しそうに木葉が話していたのを覚えている。

「噂程度でなら、知ってますよ。」

でも、それがどうして彼女に関係するのか。興味無さげに答えれば、先生が言いにくそうに言葉を濁す。

「…あの制度を廃止にしたのは、彼女なの。」

「は?」

意外にもあっさり出てきた言葉に思考回路が着いてこなかった。

彼女が制度を廃止したと言うなら、今のナンバーワンは彼女と言うことになる。また可笑しな冗談を。と言葉を切り出そうとしても、下駄箱の事を思い出して飲み込んだ。

「去年の世代交代で、彼女は偶然にしろ当時のナンバーワンに勝ってしまった。」

「何で…今まで一年は参加出来てもしないのが暗黙の了解でしたよね。入学式の時にそれとなく、先生達が言ってたんすから、知らないなんてはずは…。」

「勿論。彼女も知っていたわ…。」

でもね。と詰まらせる先生。余程言いにくいのか、肩を落として必死に言葉を選んでいた。

「…入学してすぐ、彼女のお友達がね、ナンバーワンに気に入られちゃって告白されたの。当時付き合ってる子がいたお友達は、当然断ったわ。でも、しつこかったナンバーワンは断ったお友達と、その彼氏の子を次の日痛め付けた。どうやったのかは…私の口からはとてもじゃないけど…言えないわ。それで激怒した白沢さんは、元々喧嘩が強かった事もあって復讐としてナンバーワンに挑んだのよ。」

「…それで彼女は見事勝ってしまった。」

先生が肯定の意味を込めて頷く。

「それだけなら良いんだけどね。彼女が廃止にしたことによって、昔のナンバーワンについてた子達や、廃止反対組の先生に雇われた子達に狙われる日々が続いてるの…。そのせいで彼女はクラスでも孤立しちゃって。一人でいれば奇襲される毎日に、関係ない子達も、彼女の周りは危ないって遠ざけるようになったわ。」

周りの下衆さに苛立ちを隠せない俺は、眉間にシワを寄せて話を聞いた。

皆が笑えばそれで良い。木葉の口癖。その言葉の深意は俺には分からないけれど、そう言う幼なじみを持っているからこそ、卑怯な手で悲しむ人が出ていた事に腹が立った。

(笑えない日々なんて、そんなの詰まらない。)

白沢さんはどれだけ、笑えない毎日を過ごしてきたのか…。考えれば考えるほど、怒りよりも先に辛さが胸を刺した。

「…白沢さんと、仲良くしてあげてね。」

「言われなくても。」

「木葉くんにも、宜しくね。」

「…二葉姉ちゃんに、言われたくない。」

脱がされていたブレザーに袖をとおし、ベッドから降りて「それじゃ」と保健室を後にした。

「…嵐は、もう私なんて嫌いなのかしら。」

「はは。あいつは、俺無しじゃ生きていけませんから。」

「私じゃなくて彼をとった貴方がそれを言うのね、木葉…。」

「俺はアンタも大事だよ。センセ。」

出ていったはずの木馬が隣のベッドにいたなんて考えもせずに、俺は木馬を探して校内を歩き回った。
< 6 / 15 >

この作品をシェア

pagetop