進む道。
[お前今何処に居んの?]
木葉からのメール。
[屋上。つーかその台詞、俺だから。お前が何処にも居なかったんだろ。]
一周して疲れた俺は、授業にも出ずに先生の言葉を思い返していた。
青い空に飛行機雲が線を描く。
雲ひとつ無い空に描かれた線は、風に流されて歪な形をしていた。
(孤立、かぁ。)
ピンと来ない言葉を何度も頭で呟く。昔から木葉と言う唯一の存在がいた俺は、孤独や寂しさを感じたことがなかった。
だから、周りなんてどうでも良かった。
友達が居ないわけじゃない。でも、それ以上に木葉と言う存在が大きく、木葉さえ居ればと世界を閉じる。
二人の世界。そこで完結する関係、自覚しているそれは依存に近い。
でも一度。木葉を取られそうになった事があって、俺は木葉の自由を許せなかったーー
物心ついた頃から父子家庭だった俺は、家で一人でいることが多かった。その時、よく世話に来ていた従姉が、母親代わりになってくれていた。
八つ上の姉ちゃん。
姉ちゃんが中学に上がる時、俺は初めて木葉に出会った。転園してきた頃の木葉に、今ほど明るい印象はない。染めていない真っ黒の髪は、天然が入っていてくるくるしていた。
木葉の家も片親で、働いていた事もあって幼稚園に迎えが来る時間が遅かった俺たちは、二人で親を待つうちに仲良くなっていった。
その時、親父の代わりに迎えに来ていた姉ちゃん。
「待たせてごめんね。木葉くん、嵐。」
笑顔で名前を呼ぶ姉ちゃんは、セーラー服を着て眼鏡をかけていた。
小学生になって、自我を持ち始めた俺たちは、クラスで起こった苛めや、裏切りを目の当たりにして思った。他人は信じちゃダメだ。と。
中学へ上がると、姉ちゃんは成人していた。教員へなるべく学校へ通っていた姉ちゃんが、家に来ることは少なくなっていた。
その筈なのに、たまに帰ってきては、木葉と遊びに出掛ける姉ちゃん。俺は木葉をとられたような気がして、二人の前でぶちまけた。
『俺を裏切るのかよ。』
姉ちゃんは瞳に涙を溜めて、必死で謝っていた。
木葉は、笑った。
『んなわけねえだろ。ずっと傍にいるよ。』
その時の木葉の笑顔が、本物だったのか、俺には今でも分からない。
言霊と言う鎖に繋がれた木葉は、それ以降俺から離れようとしなくなった。