パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
第2章
①過ち
久しぶりに飲もうよ。
そう琴美に誘われて、仕事を定時で切り上げてふたり並んで歩き出す。
部長にあっくんへの気持ちがばれてしまってから、一カ月ほどが経過していた。
金曜日の夜は部長の部屋で過ごすことがこの頃の定番。
でも、今日の部長は残業があるらしく、喜んで琴美の誘いに乗った。
「どこに行く?」
「最近オープンしたばかりの居酒屋を発見したんだけど、そこなんてどう?」
そんな会話をしながら歩いている時だった。
目の前を横切った人物が、私の視線をさらっていく。
あれ? 今のって……。
「どうかした?」
立ち止まった私に、琴美が振り返る。
「あ、うん……」
曖昧に返事をしながら、その背中を目で追って行く。
でも、一緒にいるのはあっくんじゃない。
人違いかな。
紗枝さんだと思ったのは、見間違いかな。
そう思ったものの、何かが心に引っかかる。