パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「ごめん、琴美。ちょっと待ってて」
「えっ、ちょ、ちょっと!」
そう言い残して、通り過ぎたふたつの背中を追いかけた。
どうか、紗枝さんじゃありませんようにと祈る。
明らかに親しげな様子で寄り添っていたふたり。
それがあっくんだったのなら分かる。
でも、違っていたのだ。
嫌な胸騒ぎが押し寄せる。
やっと追いついたふたりに気づかれないよう、人混みに紛れて、その顔を確かめた。
――紗枝さんだ。
それじゃ、隣の人は……誰?
私に気づかないまま、紗枝さんは男の人に肩を抱かれるようにして歩いている。
ある程度の距離を保ったまま追っていると、ふたりは小さな路地を入って行った。
――えっ……そっちって確か……。
緊張に速まる鼓動。
どこに行く気なの?
一旦止めた足を無理に動かし、さらにふたりを追いかける。
暗い路地を抜けると、ピンク色や紫色のネオンが並ぶ、ラブホテル街が姿を現した。
まさか、入らないよね?
祈るような気持ちで足を進めると、ふたりは私の想いを裏切って、その中のひとつに吸い込まれて行った。
それを見て呆然と立ち尽くす。
そんな……。
どういうことなの?
二股してるの?
それとも、浮気?
……どっちにしても……許せない。
あっくんがいながら他の男の人だなんて、絶対に許せない。
私がどんな想いでふたりを見ていたか。
悔しくて。
悲しくて。
握り締めた拳は、手の平に爪で血が滲むほどだった。