パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
電車も動き出した頃。
そろそろ帰ろうかと、腰を上げて砂を払い落した。
駅がどっちなのかすら分からなくて、とりあえず道路に出てみる。
勘を頼りに左へ進んでいくと、夕べは気づかなかった喫茶店らしき建物が目に留まった。
入口のドアが開け放たれていて、そこからほうきがチラチラと顔を覗かせている。
さらに近くまで行くと、今度は男の人が出て来て、バッチリと目が合った。
「おはようございます」
突然声を掛けられて、「――おはようござます」と、急いで軽い会釈と一緒に返した。
「今朝も冷えますね」
人の良さそうな顔でニコニコと微笑む。
ニット帽に口ひげ。
多分、年齢は四十代も半ば頃。
この店のマスターなのか。
「寄って行きませんか?」
「えっ……もうオープンしてるんですか?」
腕時計で時間を確かめる。
……まだ七時にもならないのに。
「いや、まだですけどね。ちょっと疲れたような顔が気になってね」