パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

そこでふと、部長の作ってくれたホットミルクを思い出した。
それが無性に飲みたくなって、無理を承知で聞いてみる。


「あの……ホットミルクなんてありますか?」

「あれ? この店は初めてですよね?」


マスターが目を瞬かせる。

こっち方面に来たのも初めてだ。
躊躇いながら頷いた。


「うちの裏メニューをよくご存じで」

「裏メニュー……?」


ホットミルクがこの店の裏メニューなの?


「はい、メニュー表には載せてないんですけど、一度お客さんに出したら、ジワジワと人気が出たものなんですよ」

「そうなんですか」

「ホットミルクね、かしこまりました」


ニコニコしながら頭を下げると、マスターは奥へと入って行った。
そして、しばらくすると、甘い香りを載せて再びマスターが登場する。


「お待たせいたしました」


目の前に置かれたカップからは、湯気が上がっていた。

< 118 / 282 >

この作品をシェア

pagetop