パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「そうだ、二葉」
部長が突然、何かを思いついたように声を上げる。
「砂の城でも作るか」
海を眩しそうに見つめながら、部長は微笑んだ。
「砂の城、ですか?」
「子供の頃、作らなかった?」
「作っても、せいぜい山にトンネルを掘るくらいでした」
「そっか。それじゃ、一緒に作ろう」
部長が子供のようにはしゃぎ出す。
その場に屈み込み、乾いた砂を手でかき集め出した。
そして、周りを見渡して壊れかけたバケツを見つけ、打ち寄せる波まで走ったかと思えば、いっぱいに水を汲み上げ、集めた砂に掛ける。
そんなことを繰り返して高く盛った砂に、今度は貝殻で城の形を作り始めた。
「俺、小学生の頃から図工って得意だったんだよね」
「イメージ通りです」
でもきっと、工作をし終わった後には、使った道具類が散乱していたに違いない。
あれだけ片付けるのが苦手な部長だから。