パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

「そうだ、二葉」


部長が突然、何かを思いついたように声を上げる。


「砂の城でも作るか」


海を眩しそうに見つめながら、部長は微笑んだ。


「砂の城、ですか?」

「子供の頃、作らなかった?」

「作っても、せいぜい山にトンネルを掘るくらいでした」

「そっか。それじゃ、一緒に作ろう」


部長が子供のようにはしゃぎ出す。
その場に屈み込み、乾いた砂を手でかき集め出した。
そして、周りを見渡して壊れかけたバケツを見つけ、打ち寄せる波まで走ったかと思えば、いっぱいに水を汲み上げ、集めた砂に掛ける。
そんなことを繰り返して高く盛った砂に、今度は貝殻で城の形を作り始めた。


「俺、小学生の頃から図工って得意だったんだよね」

「イメージ通りです」


でもきっと、工作をし終わった後には、使った道具類が散乱していたに違いない。
あれだけ片付けるのが苦手な部長だから。

< 126 / 282 >

この作品をシェア

pagetop