パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

会話が漏れ聞こえる。

誰からだろう。
会社関係かな。
そんなことを思いながら待っていると、ポツリと鼻先に雨粒を感じた。

見上げると、ついさっき薄く差していた太陽は姿を隠し、灰色の雲が空を覆い尽くしていた。
見る見るうちに降り注ぎ始めた雨は、私たちの肩先を濡らし始めた。


「ごめん、二葉、お待たせ。随分と突然の雨だな。早いところ車へ行こう」


部長に手を取られた。


「あっ、ちょっと待ってください」


せっかくふたりで作ったのに、雨にどんどん浸食されていく砂の城。
急いでスマホを取り出し、カメラに収めた。


「ずぶ濡れになるぞ」


もう一度手を引かれて、ふたり揃って駆け出す。
それでも車に着いた頃には、頭から滴が零れるほど濡れてしまった。

持っていたのは、ハンカチくらい。
部長の顔をそれで拭うと、「俺は大丈夫だから」と、逆に私の額に当てられた。


「さっきの電話、急ぎの用件じゃなかったですか?」

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