パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
◇◇◇
「二葉……」
起きたくなかった。
眠っていたかった。
朝を迎えて、また夜が次の朝を連れて来ても、部長の腕に抱かれながら、このままずっとこうしていたかった。
無言を貫き通す私の唇に、そっと降りてきた柔らかい感触。
何度も触れては離れを繰り返されているうちに、自然と吐息が漏れてしまった。
「……やっぱり起きてた」
瞼を開けると、部長がいたずらっぽく笑う。
「だって……」
「だって、何だ」
「目を開けたら、全部夢なんてことだったら怖いから」
「夢じゃない」
そうだけど……。
幸せ過ぎると、それを手離すときがくるんじゃないかと、不安が芽生えてしまう。
そんなことはないと思う心のどこかで、それに怯える自分がいることに気づく。
部長の胸に腕を回し、ギュッとしがみついた。
それに応えて、部長も私を強く抱き締める。
素肌に感じる温もりが、夢じゃないことを気づかせてくれた。
私の鼓動と輪唱するように聞こえてくる部長の鼓動が、母体の中で赤ん坊が感じる音のように、私を安心させてくれた。
「俺には二葉だけだから……」
甘く囁く部長に、口づけで返した。