パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

◇◇◇

「部長の相原でございますね、少々お待ちくださいませ」


電話の保留ボタンを押し、部長の席へ視線を投げる。
すると、ついさっきまで見えた部長の姿は、そこになかった。


「ね、琴美、部長、どこにいったか知ってる?」


隣の琴美に問い掛ける。


「部長なら、社長から内線で呼ばれて席を外してるよ」


その答えが返ってきたのは、課長からだった。


「そうですか。ありがとうございます」


相手先に折り返し掛けることを告げ、一旦その電話を切った。

また社長からの呼び出しなんだ。
ここ数週間、頻繁にあるけれど、一体何だろう。
そういえば、ふたりで海にいたときも、休みだというのに呼び出しの電話みたいだったっけ。


「どうかした?」


仕事の手が止まっていることに気づいた琴美が、私に声を掛ける。

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