パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
◇◇◇
その日の夜。
「何かあったんですか?」
一緒にとった夕食を終えて、部長はソファに腰を下ろした。
小さく吐いた溜息を聞き逃すわけにはいかない。
隣に座り、部長の言葉を待つ。
「……ん? 別に何もないけど?」
一瞬の間の後、微笑んだ。
けれど、どことなく笑っていない目元。
「社長に何か頼まれごとですか?」
「えっ?」
“社長”という言葉に過剰反応を見せる。
「大きなプロジェクトを任されたとか」
「……まぁ、そんなところだ」
小さく息を吐きながら部長が答える。
「部長を悩ませるほど、大変なことなんですか?」
部長に思いつめるような顔をさせるなんて、よほど大きな仕事なのか。