パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
ギリギリで席に着くと、早速新任部長の挨拶が始まる。
「本日より、こちらでお世話になることになりました、相原仁(あいはら じん)です。本社勤務は四年振り。久しぶりなので戸惑うこともあるかと思います。みなさんのご協力を…………」
「ね、二葉」
隣に立っていた琴美(ことみ)が私を小声で小突く。
何? と目で訊ねると、「なかなかの素敵男子だと思わない?」と、私の耳元で嬉しそうに囁いた。
木下琴美、私とは同期入社で、同じ部署に所属する二十六歳。
小動物のように可愛らしい顔、くせ毛のショートカットが似合う、活発な女性だ。
男の人、特にイケメンと分類される人に対するアンテナはかなり敏感だと思う。
今回も、それが反応したようだ。
言われて見てみれば、琴美が即座に反応するのも分かる気がした。
柔らかそうな栗色の髪は、手を加えた無造作なスタイル。
すっきりとした印象を与えるのは、切れ長の目と細い鼻筋のせいだろう。
おまけに手足まで長い。
遠目からでも目を引く容姿だった。
けれど、今の私には興味を持てなくて、「そう?」と曖昧に答えた。