パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
ただでさえ、不安いっぱいの異動。
それが、窓際と陰口を言われるようなところなのだから、たまったものじゃない。
「あ、そういえば、人事部長からその手の連絡があったような……なかったような」
しばらくの沈黙の後、のらりくらりと答える。
どっちなのよと、思わずツッコミを入れたくなった。
「とにかく、どうぞどうぞ。こんなところですけどね」
どうぞと言われたって……。
「あの……私の席は……?」
あ、そうか、というような顔で、その人が事務所内に視線を泳がせる。
ざっと見渡したところ、机は五つ。
その全ては、書類の山で埋もれていた。
机の意味を全くなさない、物置き同然だった。
「そうですねぇ……、それじゃ、そこの席をどうぞ」
「え、でも、どなたかの席じゃないんですか?」
「いや、特に席次とか決まってるわけじゃないんでね。よかったら、そこをどうぞ」