パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

「こんなところまで来てくれて、ありがとうございました。すごく嬉しかったです」

「俺も心配だったしね」


カバンを持ちかえて、そっと手を繋いでくれた。

異動初日。
心細いのは覚悟の上だったけれど、こうして部長がわざわざ来てくれただけで、そんな気分も吹き飛んで行く。

部長がいてくれれば、それでいい。
そう強く思った。


「菊池部長と顔見知りだったんですね」

「俺が新入社員の時の上司。社長と意見が食い違って、ここへ飛ばされたんだ」

「……そうだったんですか」


自分と対立する意見を持つ人だって、大事な人材だと思うのに。
みんながみんな、自分に迎合するひとばかりじゃ会社は伸びないんじゃないか。
社長がそこまで独裁者だとは、思いもしなかった。


「でも、人の良さそうなオジサマって感じで、話しやすくてよかったです」

「ああ見えて、昔は頭のキレるやり手だったんだ。だから、勿体ないよな、倉庫の管理なんて」

「そうなんですか……」

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