パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

頷くと、バツが悪そうに顔をしかめた。


「あの夜は、本当に社長と会うことになっていたんだ。ただ、そこに彼女もいて……。彼女にも無理だと伝えてあるから、二葉は心配する必要はないよ」


それじゃ、社長の娘と一緒だったのは不可抗力だったんだ。

示し合わせて会っていたわけじゃないことがわかって安心したものの、別の気がかりは消せない。


『別れてくれないと、相原仁に迷惑が掛かるってことだけ忘れないでください』
そう言って立ち去った彼女の言葉が、胸に引っ掛かって仕方ない。
やけに自信たっぷりで、挑戦的な目だった。
それは、私が尻込みしてしまうほどに。


「大丈夫だ」


いつまでも心細そうにしていると、部長が私をもう一度抱き締めた。

不思議だ。
部長が優しく微笑でくれると、そんなものはだんだん小さなものになっていく。
全て、私の取り越し苦労だと思えてしまう。

そっと重なった唇から、部長の愛が伝わってきた。


「二葉……抱きたい……」


耳元で甘く囁かれて、部長の肩に腕を回した。

もしかしたら、部長も漠然とした不安を感じているのかもしれない。
身体を合わせることで、拭い去りたいのかもしれない。

それは私も同じだった。
部長の温もりを素肌に感じれば、悪い夢を束の間見ただけだと思えるはずだから。

抱き上げられて、ベッドに沈んだ。

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