パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
◇◇◇
資料室就き。
聞いたこともない部署名に、不安がどんどん押し寄せる。
そんな部署が新設されたことも聞いていないし、どことなく左遷を漂わせる『資料室番』という響きが気になる。
心当たりがあるとすれば、地下一階の倉庫。
そこは普段、ほとんど人の出入りがない場所だった。
そんなところに部長が?
菊池部長に頼まれた書類を経理部へ届けると、エレベーターで地下へと向かった。
明かりは点いているのに、薄暗い通路。
不安を振り払うように走った。
カッカッカッと響くヒールの音。
やけに遠く感じた一番奥の部屋へと辿り着くと、大きく扉を開いた。
こちらに背を向けている人影に、私の予想が当たってしまったことを思い知る。
「……部長」
小さく呼び掛けると、驚いたように部長が振り返った。
「二葉……どうしたんだ、こんなところまで」
「どうしたんだじゃないです。異動の話を菊池部長から聞いて」
「……そうだったのか」
私から視線を外し、手元のデスクにもたれかかった。