パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
デスクとは言っても、今まで使っていたような機能にもデザインにも優れたものではなく、鉄製のチープなものだった。
それが余計に『左遷』を連想させる。
見てはいけないものを見てしまったようで、私まで目を逸らしたくなる。
俯いた部長の顔は、ひどく悲しげだった。
「……どうして何も言ってくれなかったんですか?」
「二葉に心配かけたくなかったからね」
「そんな……」
心配もなにも、そんな大事なことを知らせてもらえないのは逆に辛い。
胸が苦しさで潰されてしまいそうだった。
「もしかして、社長の娘さんとの結婚を断ったから――」
「それは違う」
私の言葉を遮るようにして、部長が強く否定する。
「でも」
「それとこれとは関係のないことだ」
部長が何かミスをしでかしたとは思えない。
ここへ異動させられる理由が、他には見つけられないのだから。
相原仁と別れなかったら、彼に迷惑がかかる。
私を脅すように言った、彼女の言葉が引っ掛かる。
「とにかく、二葉は何も心配しなくていいから」
寂し気な笑顔が向けられたのだった。