パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
◇◇◇
「この会社も、そう長くはないかもしれないね」
琴美がおにぎりを頬張りながら顔をしかめた。
相原部長と話した後、ちょうどランチタイムに差しかかるということで、本社で食事を済ませることを菊池部長に許してもらったのだ。
他には聞かれたくなくて、琴美とふたり、おにぎりとサンドイッチを社食で買い込み、誰もいない屋上へと来ていた。
「どれだけ娘を溺愛してるんだか」
さっき、部長は否定していたけれど、社長の娘との縁談を断ったことが関係しているらしいという噂は、社内でも流れているらしかった。
「でもね、社内のみんなは不思議がってるよ」
「何を?」
「社長令嬢と結婚すれば、次期社長の座は約束されたも同然じゃない。性格はどうだか知らないけど、彼女、容姿は抜群らしいしね。……あ、ごめん」
慌てて謝る琴美に、気にしないでと首を横に振った。
小柄だけれど、凛とした人目を引く美人だった。
挑戦的な言葉はさておき、育ちの良さを感じる容姿は、みんなの噂している通りだ。