パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

◇◇◇

「この会社も、そう長くはないかもしれないね」


琴美がおにぎりを頬張りながら顔をしかめた。

相原部長と話した後、ちょうどランチタイムに差しかかるということで、本社で食事を済ませることを菊池部長に許してもらったのだ。
他には聞かれたくなくて、琴美とふたり、おにぎりとサンドイッチを社食で買い込み、誰もいない屋上へと来ていた。


「どれだけ娘を溺愛してるんだか」


さっき、部長は否定していたけれど、社長の娘との縁談を断ったことが関係しているらしいという噂は、社内でも流れているらしかった。


「でもね、社内のみんなは不思議がってるよ」

「何を?」

「社長令嬢と結婚すれば、次期社長の座は約束されたも同然じゃない。性格はどうだか知らないけど、彼女、容姿は抜群らしいしね。……あ、ごめん」


慌てて謝る琴美に、気にしないでと首を横に振った。
小柄だけれど、凛とした人目を引く美人だった。
挑戦的な言葉はさておき、育ちの良さを感じる容姿は、みんなの噂している通りだ。

< 182 / 282 >

この作品をシェア

pagetop